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「お世話になった先に迷惑をかけたくない」が、会社の幅を狭める ― 義理を守るためにこそ、先に話しておく

長く経営を続けてきた会社ほど、取引先との関係は深くなります。仕事の多くが既存のお客様からの紹介で広がり、気づけば「声をかけてくれる相手のために、いつでも動けるようにしておく」ことが会社の当たり前になっている。これ自体は信頼の証であり、誇ってよいことです。ところが、業績が苦しくなって新しい仕事に手を広げようという段階になると、この誠実さが足を引っぱることがあります。先日のある会議でも、経営者の方が「新しい仕事を入れて、今までのお客様に迷惑をかけるのは申し訳ない。経営者としては間違っていると分かっているのですが」と話されていました。同じ思いを抱える経営者の方は、決して少なくありません。
義理堅さが、仕事の入口を一つにしてしまう
紹介で仕事が広がる会社は、営業に力を割かなくても受注が続くぶん、取引先の顔ぶれが偏りやすくなります。人の配置も段取りも「いつものお客様」に合わせて組まれるので、ほかの話が来ても「受けたら回らなくなる」と断ってしまう。これを何年も続けると、会社の売上は少数の取引先の動きとほぼ同じ形になっていきます。新しい取引先を探す営業の経験も積まれないため、いざ必要になったときに、どこから手をつければよいか分からないという声もよく聞きます。
取引先の仕事が増えている間は、問題は見えません。しかし相手の業界が冷え込んだり、相手の都合で発注が止まったりすると、自社も一緒に止まります。取引先に休みや繁閑の波があれば、その波もそのまま自社の売上に乗ってきます。自分たちがどれだけ頑張ってもどうにもならない理由で売上が落ち、しかも代わりの入口がない。義理を大切にしてきた会社ほど、この状態に陥りやすいのです。
守っているつもりが、いちばん大きな迷惑になる
「迷惑をかけたくない」という気持ちの裏には、新しい仕事を受けた結果、既存のお客様の依頼に応えられなくなることへの不安があります。けれども、少し立ち止まって考えてみてください。このまま売上が戻らず、会社そのものが続けられなくなったら、取引先にとってはどうでしょうか。頼めば来てくれるはずの相手が、ある日突然いなくなるのです。迷惑をかけまいとして動かずにいることが、結果としてもっと大きな迷惑につながりかねません。
外から見ている人ほど、この点をはっきり指摘します。十の依頼に応えていたところが、八になるかもしれない。それでも会社が続いていれば、関係は続きます。ゼロになることに比べれば、ずっと小さな影響です。取引先の側も、一社にすべてを頼っている状態は、本来望んでいないはずです。会社を立て直すことこそが、お世話になった相手への一番の恩返しだと捉え直す。そこが出発点になります。
義理は、先に話しておくことで守れる
では、どう動けばよいのか。ポイントは「黙って新しい仕事を始めない」ことです。長く付き合ってきた取引先には、会社の状況と、新しい分野にも取り組むこと、その結果ご迷惑をかける場面があるかもしれないことを、自分の口から先に伝えておく。その際、いつ頃から、どのくらいの規模で始めるのかまで具体的に話せると、相手も自社の段取りを考えやすくなります。信頼関係のある相手なら、事情を知ったうえで理解してくれることがほとんどです。後から知られるより、先に話しておくほうが、関係はずっと傷みにくいものです。
新しい取引先に対しても同じです。「空いている時期に、回せる分だけなら受けられます」と条件を最初に示せば、無理な約束をせずに済みます。そして、新しい仕事を担ってもらう社員には、決めてから命じるのではなく、なぜ幅を広げるのか、それで会社と自分たちの何が変わるのかを先に話し、了解を得ておく。新しい仕事が軌道に乗れば会社の経営が安定し、それが待遇にもつながっていく。その見通しまで話せると、社員の受け止め方は大きく変わります。順番を守るだけで、取引先とも社員とも関係を壊さずに一歩を踏み出せます。
取引先を大切にする姿勢は、変える必要はありません。変えるのは順番です。迷惑をかけないように動かないのではなく、迷惑をかけるかもしれないことを先に伝えてから動く。義理堅い経営者の方ほど、この切り替えひとつで打てる手が大きく広がります。私たちも、そうした一歩を踏み出す場面に伴走していきたいと考えています。

